私たちはキーラの所へやってきた。

「噂には聞いてたけど、本当に綺麗な竜だな」

アウリスは感嘆の声をもらす。

「この子は、本当は生まれてこないはずの子だったんです」

私は3年前のことを思い返す。

「どういうこと?」

「母親の竜がなぜか卵を温めるのをやめてしまったんです。でも、私は諦めることができなくて、自分で温めて(かえ)したんです。
 綺麗なだけじゃなくて、とても素直ないい子ですから、可愛がってあげてくださいね」

私がそう言うと、アウリスは私の頭をくしゃりと撫でた。

「当然だろ? レイナが育てたんだ。
 大切にするよ」

大きな手……

小さな手で指輪を作ってくれたあの頃とは全然違う。

なんだろう、これ。

胸の奥に何かざわめくような不思議な感覚。

初めて感じる思いに、微かな戸惑いを覚えた。



「レイナ、一緒に飛ぼう」

「はい」

アウリスに誘われて、こくりと頷く。

 先に縄梯子を登ったアウリスがこちらに手を伸ばして来る。途中まで上った私は、アウリスの手を取った。
温かい大きな手。
私がきゅっと握ると、アウリスはさらにしっかりと握り返して、引き上げてくれる。


 私は、アウリスの前に座り、気付いた。

すごく近い。

当たり前なんだけど、今までこうして乗るのは、お父さんとばかりだったから、気にしたことなかった。

 お尻はアウリスの両足に挟まれてるし、背中はアウリスの胸に当たりそうだし、アウリスの吐く息は、私の頭に当たって髪を揺らすし、手綱を握る手は、私の左右から伸びて、まるで、抱きしめられているような気がする。


どうしよう。

龍に乗って、こんなにドキドキするの、初めて。


「レイナ、行くよ」

「は、はい」

竜笛を咥えたアウリスに声を掛けられ、返事をしようとしたら、声が上ずってしまった。