「あの、王子」

父が、おずおずと口を開く。

「王子が王位継承権を放棄されたら、次の国王陛下にはどなたがおなりになるのですか?
 エドヴァルドの将来は、どうなるのでしょう?」

「それは大丈夫。姉上に任せて来た」

は!?

「姉上とおっしゃいますと、ユリア王女様でございますか?」

父が尋ねる。

他にいないよね?
アウリスは確か2人兄弟のはず。

「ああ。
 元々、姉上の方が頭もいいし、政治にも詳しいんだ。ただ、女だっていうだけで王位とは無縁の立場にいたけど、俺がいなくなれば、姉上が王位を継げる。エドヴァルドのためには、絶対にその方がいい」

だからって……

「国王陛下はなんと……?」

「この数ヶ月、ずっと渋ってたけど、今朝、ようやく首を縦に振ってくれたよ」

そう言うと、アウリスは私を真っ直ぐに見つめる。

「だから、レイナ、俺と結婚しよう。
 俺は、一生、レイナと一緒に、レイナを守って生きていきたいと思ってる」


いいの?
私のせいでアウリスの生き方を変えさせることになって。

それでアウリスは後悔しない?

「あの……
 アウリスの気持ちは、嬉しいの。
 でも、私のせいでアウリスが国王になれないなんて、そんなこと……」

やっぱりダメだよね。

「レイナ、俺、国王になりたいなんて言った?
 俺は、生まれてこの方、一度も国王になりたいなんて思ったことないよ。
 むしろ、あんな不自由な城から出たいって、ずっと思ってた。
 だから、レイナが自分を責める必要はないし、俺もこの決断が間違ってるとは思わない」

すると、横で聞いていた父が再び口を開いた。

「王子のお気持ちは分かりました。
 しかし、竜使いは王子が思ってるほど、生易しい仕事ではありません。
 もし本気で王子が竜使いとしてやっていくおつもりなら、1年間、見習いとしてレイナと同じ仕事をやってみてください。
 レイナと同じだけの働きができるなら、竜使いとなることを認めましょう」

「ああ、分かった。
 必ず、やり遂げてみせる」

アウリスは、真剣な顔で答える。しかし……

「王子、僭越ながら、言葉遣いから、直させていただきます。
 返事は『ああ』ではなく、『はい』です。
 それから、今後、王子のことは、アウリスと名前で呼ばせていただきます。
 よろしいですね?」

「ああ、いや、はい、分かりました」