竜の乗り方を教えてほしいと言っていたアウリスだったけど、とても滑らかに飛び立ち、上空へと舞い上がった。

「すごくお上手ですけど、いつも乗ってらっしゃるんですか?」

私は尋ねるけれど……

「レイナ、敬語!」

と不機嫌な声で返されてしまった。

だって、もう子供じゃないんだもん。無理だよ。

だけど、アウリスはそんなことを言っても納得してはくれないだろう。

「アウリスは、いつも竜に乗ってるの?」

すると、アウリスはいつものアウリスに戻る。

「城から外に出るには、船か竜しかないから。
 街を歩きたい時は船で出るけど、遠出する時や、畑の作物の状況を確認したい時は竜で出るんだ」

上昇気流を捕まえたキーラは、穏やかに気持ち良さげに飛んでいる。

「レイナは、竜の谷でいつもどう過ごしてるんだ?」

どうと言われても……

私は、父との生活や竜の飼育、果てはマリッカおばさんのことまで、アウリスに尋ねられるままに話した。

「谷には、同じ年頃の男はいないのかい?」

「同い年はいないけど、2つ年上のオルヴォと1つ年下のペルッティの兄弟がいるわ。
 マリッカおばさんちの近所に。
 どうして?」

「その……
 レイナのことを好きになったりしないのかと思って」

は!?

「ふふふっ
 あるわけないわ。
 だって、谷をそのまま下れば、町に出るんですもの。わざわざ山を登って私に会いに来るより、下って町のお洒落で綺麗な女の人の所へ行った方がいいに決まってるわ」

変なことを聞くのね。

「レイナは、他の誰よりも綺麗だよ。
 その素直な心は、他の誰にも真似できない」

頭上から背中越しに熱弁されて、頬が火照(ほて)る。

「そんなこと……」

私が口ごもると、アウリスは手綱を持つ腕を、私の両脇を抱きしめるように、ギュッと締めた。

「レイナ、俺、ずっと心に決めてたんだ。
 俺と結婚しよう」

えっ?

えぇっ!?

「それは…… 無理です」


もう子供じゃない。

無邪気に「はい」と言える年なら良かったのに。

絵本の中のように、思い合えば全てが叶う世界なら良かったのに。

王子様と竜使いじゃ、身分が違う。

私じゃ、お妃様にはなれない。

それが現実。