これ以上ここにとどまっていたら、ますます名残惜しくなりそうで、レオンティーナは先に馬車に乗り込んだ。ソニアとロニーも続けて乗り込んでくる。
 本来ならば、大公家の馬車には身の回りをする侍女や従僕以外の使用人は乗せず、別の馬車を用意するものだ。レオンティーナはふたりを使用人以上の大切な存在だと思っているし、今回は長旅だ。乗り心地のいい馬車にふたりも乗ってもらうことにしたのだ。
 別れを惜しむ声を背に馬車はバルダート家を出立した。

「皇宮でヴィルヘルム殿下と待ち合わせるのでしたよね」
「ええ。グラナック博士も皇宮で合流するそうよ」

 バルダート領と行き来する必要があるために、大公家の馬車は贅沢な作りであった。
 揺れもほとんど感じず、乗り心地は最高だ。中は広々と作られていて、足をゆったりと伸ばすことができる。
 皇宮では、ヴィルヘルムはもう出立の準備を終えて待っていた。
 ヴィルヘルムの両親である皇帝とケルスティンはこの場には来ていなかったものの、妹のルイーザと弟のユリウスは馬車の側に立って待っていた。

「レオンティーナ、お兄様をお願いね。無茶をするんじゃないかって、心配なのよ」