それを前世と言ってしまっていいものかどうかはわからないが、レオンティーナは、ヴァスロア帝国最後の皇妃にして史上最悪の皇妃であった。
 幼い頃は、鮮明に覚えていたけれど、今となってはどことなく遠い世界の出来事のようにも思えてくる。
 国力が弱くなっていることなどまったく知らず、多数の人を集め、美酒と美食に酔いしれた皇妃時代。
 夫であった皇帝を失い、捕らえられ、処刑を待つだけだった高い塔の中での生活。そこでレオンティーナの世話をしてくれたのがソニアだった。
 処刑の場に立ったレオンティーナが最後に願ったのは、「もし、次の機会があったなら、今度はいい皇妃になる」ということであった。
 神がその願いを聞き遂げてくれたか否(いな)か。それは、レオンティーナにはわからない。
 けれど、首に冷たい刃の感触を覚えた次の瞬間には――八歳の誕生日を迎えた朝に戻っていた。
 今度は同じ過ちは繰り返すまい。誰よりも、自分ならこの国を上手に治めることができる。
 そう誓い、同じ人生を歩まないよう、必死にここまでやってきた。
 そして、明日、レオンティーナの新しい一歩が始まろうとしている。