「学者仲間は気にしないよ。すぐに気になった本を手にすることができるって、逆に喜ぶくらいだ。気にする相手の場合は……母上か妹の客間を借りている」

 ギルベルトにはふたりの妹がいるが、ひとりは成人している。おそらく、そちらの皇女の部屋を借りているのだろう。

「君は気にしないと思ったからこっちにしたんだけど、母上の客間の方がよかった?」
「いえ、気にしません……というより、個人的には好ましい部屋だと思います。殿下の注いだ情熱がすべてここに集約されているのですね」

 レオンティーナの口から出たのは、素直な称賛の言葉であった。
 この部屋は、ギルベルトが情熱を注いでいる歴史が集まっている。書棚にぎっしりと並べられた本も、書棚に入りきらず、花台の上に横積みになっている本も、彼の情熱の証だ。

「君なら、そう言ってくれると思ったんだ」

 ギルベルトは、表情を柔らかくした。
 彼の居間は散らかっているけれど、ふたりが向かい合っているテーブルだけは、綺麗に片付けられていた。