(……少なくとも、ファブリス陛下のお相手をするより、私にとっては大切なことだわ)

 とはいえ、急ぐと言ってしまった以上、いつもの時間まで机に向かっているわけにもいかないだろう。
 皇宮の図書館をしばしば利用していたレオンティーナが重用されているのを知ったからか、図書館はこのところ利用者が増えていた。
 以前は皇帝一族の者しかほとんど使っていなかったのが、今では貴族の中にも継続的な利用申請をし、こちらに通っては御前会議に出す議案をどうするのか考える者も増えているようだ。
 彼らより一足早くレオンティーナが立ち上がると、図書館内の空気が静かに揺らいだ。先ほどのファブリスやルイーザとの会話が漏れ聞こえていたのかもしれない。
 急いで資料を棚に戻し、後宮内の部屋で皇族との謁見にふさわしい衣服に改めてからルイーザの元へと向かう。ルイーザは、庭園内に設けられた池の側で、ファブリスと話をしていた。

「――お待たせいたしました」
「まったくだ、すごく待たされたぞ。馬を見せられ、牧場を見せられたかと思ったら、今度はここだ」

 レオンティーナの言葉に、ファブリスはやや荒っぽい口調で返してきた。