「時間ぎりぎりまでここにいていいとおっしゃったけれど、少し急ぎましょう。あの方とルイーザ様をふたりきりにしておくのは不安だわ」
「……よろしいのですか?」

 ソニアは、心配そうな表情になる。レオンティーナがファブリスを苦手としているのを、彼女は気づいているのだろう。

「私、あの方苦手なのよ……ルイーザ様も、それをわかってくださっていて、ぎりぎりまでここにいていいとおっしゃったのだと思うわ」

 隣国の王を待たせるなんて、本来ならば許されない。
 けれど、ファブリスと正面から向き合うのは怖かった。
 先日、ダンスをしながらかけられた言葉。
 前回の人生で出会った彼と、今回の人生で出会った彼。同じ人であって違う人だとわかっていても、ふとした瞬間にこちらを見下ろしていた冷たい目を思い出す。

(帝国史上最悪の皇妃に向ける目としては、ふさわしかったのかもしれないけれど……)

 考えていても仕方ないとわかっているのに、つい、そんな考えも浮かぶ。それから、首を振ってペンを取り直した。

(……今は、余計なことを考えている場合ではなかったわね)