「かしこまりました、陛下――ですが、区切りのいいところまですませてしまわないと、席を立つことができません。大急ぎで片付けますので、それが終わってからでよろしければ……」
「むぅ。俺がわざわざ声をかけたのにな」

 面白くなさそうに、ファブリスはむっと口角を下げる。だが、その素直な表情は、この国の皇族ではあまり見られないものだった。しいて言えば、ルイーザが近いだろうか。

「陛下。レオンティーナは国政に携わっているのですよ? 譲れない線というものがございます。それは、陛下もよくご存じでしょう」

 すっと横からルイーザが口を挟む。ルイーザの言葉も説得力があったのか、しかたなさげにファブリスはため息をついた。

「わかった。では、ルイーザ皇女。皇女に案内を頼んでいいか」
「喜んで」

 ファブリスが先に立ち、図書館を出ていく。ちらりとこちらに視線を流したルイーザはひょいと肩をすくめて見せた。

「ルイーザ様ってば」

 ふたりが図書館を出て行ってしまい、声が聞こえなくなったのを確認してからレオンティーナは口を開いた。