ファブリスの背後からこちらに声をかけてきたのはルイーザだった。どうやら、レオンティーナを懐柔しようとしているらしい。

(……ルイーザ様は、何をお考えなのかしら)

 疑問に思うが、今この場でそれを問うわけにもいかない。彼女の

「……ね、お願い、ティーナ。できればで、いいの。お仕事を早めに終わらせて、そのあとならいいでしょう?」

 普段はレオンティーナと呼ぶのに、あえて愛称で呼ぶあたり、自分の提案に注意を引きつけようとしている。

(そうね。ファブリス陛下の機嫌をそこねるわけにはいかないもの。お付き合いをしないわけにもいかないわよね)

 背後にいるルイーザがどんな表情をしているか、ファブリスには見えていない。けれど、正面にいるレオンティーナにはよくわかった。
 手をひらひらとさせたり、片目を閉じたり。どうやら、早く終わらせろと口にしながらも、言葉の通りにする必要はないと言いたいらしい。

(できるだけぎりぎりまで、ここにいろとおっしゃっているのね)

 ルイーザがここまで言っているのだ。いつまでもレオンティーナが突っぱねているわけにもいかないだろう。