最後の音が鳴り響く。レオンティーナにポーズを取らせながら、ファブリスはもう一度ささやいた。

「悪い話ではないだろう。考えておけ」

 まさか、ファブリスから求婚されるとは思ってもいなかった。
 いや、可能性は皆無ではないのだが、彼が実現するとは思ってもいなかった。

(……私は、どうしたらいいの。どうすべきなの)

 ヴィルヘルムとの婚約も、まだ正式に成立しているわけではない。
 いや、正式に成立していたところで、よりよい条件の話があれば、そちらに乗り換えることだって、十分あり得る話だ。

(いえ、そうやって私を揺さぶって、何か情報をひきだそうとしているのかも……?)

 レオンティーナについて事前に情報を集めていたのだとすれば、バルダート大公家の娘として十分以上の功績をあげていることも、皇帝に気に入られていることも知っているだろう。
 皇帝や父から話を引き出すより、彼より若いレオンティーナの方が彼にとっても操りやすいはずだ。
 ルイーザの時同様、広間中から浴びせられる拍手に、笑みを浮かべながらレオンティーナは頭を下げる。