ダンスフロアを占領しているのがふたりだけの理由がよくわかった。誰も、間に割って入ることはできない。うかつに入り込めば、自分達の未熟さを露呈させることになる。
 やがて一曲、終わった。最後のポーズを決めたふたりが、名残惜しそうにその手を離す。
 しん、と静まり返っていた広間は、はじけるような拍手に包まれた。今まで恐れを残してファブリスを見ていた人の目も、一気に変わったようだ。

(ヴィルヘルム様の言いたかったことが、今ならわかるかもしれないわ)

 少なくとも、レオンティーナの知っているファブリスは、こんな風に見事なステップを踏むことはなかった。軍隊にいたからダンスなんて知らないと、この皇宮を訪れた時も、壁際にいた。
 国外から訪れた賓(ひん)客(きゃく)であるから、当然彼の周囲に人はいたけれど、こんな風に温かく迎え入れられたことはなかったように思う。

(……私も認識を改めなくては)

 レオンティーナがそっと、壁際によろうとした時だった。
 レオンティーナの手を誰かが掴む。

「な、なんであなたが……」