ふっと意識してしまうのは、前皇妃――ハルディール夫人――の母国であるザリロッド王国のこと。ハルディール夫人は、皇族の暗殺を企んだ罪により、今は僻地に送られている。
 彼女を処刑しなかったのは、皇帝の温情であり、母国に配慮した結果であるが、肝心のザリロッド王国が、何も動きを見せないのだ。

(お父様に確認したけれど、抗議の文すら届いていないという話だった……)

 ハルディール夫人は、現在のザリロッド国王の妹にあたる。妹がそんな目にあっているというのに、抗議すらないというのがひっかかるのだ。

(いえ、もちろん……ハルディール夫人の罪を認め、母国としては関わらないという選択をしたという可能性も否定はできないけれど……)

 前世では、彼女はレオンティーナの義母となった人だった。だが、親しみを見せてくれたことなど一度もない。
 彼女の前に出ると、いつも緊張し、委縮し、それを見せないように背筋を伸ばすのが精いっぱいのことだった。