レオンティーナの髪を指に搦めたまま、アンドレアスは遠くを見ているような目つきになった。
 髪を取られたままという、はたから見ればものすごく誤解される状況であろうに、動けなかった。

(本当に……この方は、何を考えているのかしら)

 前世では夫婦だったけれど、アンドレアスはレオンティーナに見向きもしなかった。
 レオンティーナが散財を繰り返そうが、自分の気に入らない相手を宮中から追い出そうが、気にも留めていなかった。
 人ひとり、殺したとしてもだ。
 処刑され、捕らえられたアンドレアスが処刑されたと聞いたのは、レオンティーナが塔に囚われたあとのこと。
 アンドレアスが死亡したのち、皇帝の地位についたのは、アーシア王国の援助を受けた遠縁の者だった。
 前世でも、彼とはただ書類上の夫婦であっただけ。彼の本心なんて知るはずもなかった。
 ――そして、今回の人生では。
 アンドレアスは、レオンティーナにとっては、敵であった。彼に嫁ぐことになったら、きっとまた帝国史上最悪の皇妃となってしまう。