オフィスラブはじまってました

 っていうか、さっきのイケメン様はもしかして、方向音痴っ!?

 バス停の方角を間違い、反対に向かって歩いていっていたのでは……。

 あるのか、大人がそんなこと。

 まあ、イケメンだから許す、と惟子が思ったとき、惟子の怨念を一身に受けていることにも気づかずに、つり輪の女が爽やかに乗ってきた。

 実際のところ、そのつり輪の女は、朝っぱらから、

「生垣《いけがき》が生牡蠣《なまがき》に見えたんですよ。
 漢字って難しいですよね」

 などとよくわからないことを言って、柚月をぐったりさせていたのだが、そんなことは惟子にはわからない。

 あんた、ちょっと、こっち来なさいよ~っ!
と惟子が中学時代、部活の後輩女子を呼び出していたときの眼力でつり輪女を見つめていると、彼女は、こちらに気づき、ああ! と笑って手を振ってきた。

「江戸文学さんっ」

 勝手なあだ名をつけるなーっ、と自らも彼女をつり輪女と呼んでいることは棚に上げて思っていると、つり輪女は笑顔で、こちらにやって来た。