「ありがとうございました」
と言う柚月の言葉を聞きながら、秀治は、そっと音を立てないよう、隣のひなとの部屋に入り、ドアを閉めた。
つかつかと窓側に行き、デスクの上に水を置くと、寝ているひなとのベッドまで行き、べしべしとひなとの肩を叩く。
今まで、ひなとを起こさないよう気遣う素振りを見せていたのに。
うっすら目を開けたひなとの耳許で秀治は声を落として叫んだ。
「おいっ、ひなとっ。
今、柚月にめっちゃお前を売り込んどいてやったぞっ。
どうせ、お前、ぼうっとしてて、なんのアプローチもしてないんだろっ。
お兄ちゃん頑張っちゃったぞっ。
感謝しろっ!」
薄暗い部屋の中、ひなとは、
え? は?
と寝ぼけたまま兄に訊き返していた。



