オフィスラブはじまってました

 ひなとがいきなり訪ねてきたので、驚いて、思わず隠れてしまったのだが。

 ……もう一度、誘いに来てくれないだろうか、と田中は今、切実に思っていた。

 柚月たちが、あらかじめ、たっぷりタレが染み込ませてあるらしい肉を炭火で焼きはじめたからだ。

 タレと脂が炭に落ちる音がするたび、焦げた香ばしい匂いが鼻先まで漂う。

 ぐはっ、と頭を抱えた田中はカーテンの陰でのたうっていた。

 今すぐ、秋本ひなととの因縁と怨念など振り捨てて。

「すみません。
 今、ちょっとうたた寝してまして。

 引越しのご挨拶いただいたようで」
とかなんとか言って、挨拶ついでに俺も混ざりたいっ!
と思いながら。

 恐ろしいな、焼肉。

 数年来の恨みつらみまで吹き飛ばしてしまいそうだ……と思ったとき、

「玉ねぎ焼いたの、甘くて美味しいよ」
と言う大家さんの声までしはじめた。