オフィスラブはじまってました

 


「快調に書けてたんだけどね。
 なんかまた煮つまっちゃって」
と外廊下で言う入野に、

 ……見ればわかります、とひなとは苦笑いしながら思っていた。

「すみません。
 ありがとうございます。

 少々お待ちください」
と言って、部屋からアルミホイルとラップの包みをとってくる。

 一緒に田中の部屋に向かって歩きながら、入野が、
「助かってるよ、それ」
と包みを見て言ってくれた。

「あっ、ありがとうございますっ」
とひなとは深々と頭を下げ、礼を言う。

「いや、こっちがもらったのにお礼言われちゃおかしいよ」
と言う入野に、

「いやあ、引越しの挨拶の品って、なにがいいのか迷っちゃうので。
 そう言っていただけて、本当に嬉しいです」
と言って、ひなとが笑うと、入野も微笑み返してくれた。

 今のところ、入野さんが、このアパートで、もっとも温厚で人当たりがいい人のような気がする。

 登場人物になりきるためか、時折はじめるこのコスプレに、どきっとさせられることを除けば、とてもいい人だ。

「あのー、今度はアメリカの話を書いてらっしゃるんですか?」

 入野の扮装(ふんそう)を見ながら、ひなとは、そう訊いてみた。