「いいわ。ここは、安全だろうし」

庭園に降りると、アイリーシャ以外誰もいない。

(陛下がいらっしゃる前に声がかけられるはずだから……)

 国王の入場に合わせて戻れば問題ない。
 目の前を王宮の使用人達が通り過ぎていくが、アイリーシャには見向きもしない。完璧に存在感を消しているからだ。
 宮中には、アイリーシャ以上の魔術の腕前を持つ者もいる。"隠密"を看破できるスキルの持ち主もいるだろう。
あまり長い間は隠れていられないだろうけれど、それでも、こうして人の目から隠れているとホッとする。
結局、自分は前世から何も変わっていないということなのかもしれない。
 窓から流れてくる音楽に耳を傾け、心を落ち着けようとする。皆は、中で楽しんでいるのだろうか。
 アイリーシャは、空を見上げた。夜空を彩る星座は、日本で見ていたものとは違う。
 まったく違う世界で生きているということを実感させられた。

(そろそろ、戻った方がよさそうね)

 立ち上がり、そろりとテラスに繋がる階段へと向かおうとした時―― 不意に背後から首に腕を回され、ぎゅうっと締め上げられる。

「なっ……な……」