極限まで強力にスキルを発揮すれば、その場にいるのにいないものとして扱われる隠密スキルを最大限有効に活用している。
 実際、ヴァレリアもすぐ側に来るまで気づいていなかった。

「それにしても、楽しみ。あなたが帰ってきたから、楽しくなるわよね」
「仕事の帰りに待ち合わせて、お茶とか行ける?」
「早番の時なら、大丈夫だと思うわ」

 何はともあれ、これから楽しくなりそうだ。
 やがて、今日成人を迎えたエドアルトが、広間に入ってきた。広間にいる全員が彼に注目している。
独身の女性は、彼が入ってくるのと同時に彼の周囲を取り巻いていた。アイリーシャは、その輪には加わらず、遠くからその様子を見ていた。
黒髪はきっちりセットされているわけではなく、無造作に額に落ちかかっている。鋭い光を放つ黒い瞳は、自分に群がる令嬢達を冷たく見つめていた。
 形のよい唇は、むっと引き結ばれたまま。機嫌悪そうにも見える。
 だが、尋常ではなく整った彼の容貌は、表情が少ないという欠点をも美点に見せるのに成功していた。髪の色に合わせたらしい黒の正装がよく似合う。