転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

アイリーシャに堂々と喧嘩を売ってくるあたり、高位貴族なのだろうとは思っていたが、フォンタナ家の娘ならば納得だ。
 アイリーシャの生家であるシュタッドミュラー家とは何かと対立する立場にある。
 十年前は領地にいたそうで、アイリーシャの誕生会には招かなかった。ヴァレリアとは、今日が初対面である。

「それにしても、あなた思っていたほど注目されないのね」

 周囲を見回したダリアが首をかしげる。
十年前、都を騒がせた王太子誘拐事件の関係者、その後十年、都を訪れなかったアイリーシャが、いきなり王宮の宴に参加した。
おまけに銀髪に紫の瞳という非常に珍しい組み合わせの美少女で、宮廷魔術師がお墨付きを与えた優秀な魔術師で、公爵家の令嬢。
 どれだけ属性を盛り込めば気がすむのかと、アイリーシャが自分で自分に突っ込みたくなるほどだ。
 そんなアイリーシャが、さほど注目されていないというのが、ダリアには不思議に思えたようだ。

「皆、気を使ってくれているのだと思うわ」

 アイリーシャはとぼけた。