転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 この場で目立ってもしかたないので、喧嘩腰にならないように気を配るのも忘れない。
 相手はぐっと黙り込んでしまった。
 アイリーシャがこの場に来るのは気に入らないだろうが、『陛下からの直々のご招待』である。
 もちろん、この場にいる者は全員正式な招待状を受け取っているわけだが、基本的には王の秘書官がしたためたものだ。
王直筆の招待状を受け取っているのは、王が特に招きたいと思った相手だけである。相手はそこまで考えていなかった様子で、じっとりとアイリーシャをにらみつけてきた。

(虎の威を借りる狐って、こういうことを言うのよねぇ……!)

我ながらげんなりしてしまったが、使えるものは使う。それが、こういった場での勝利に一番近いのだ。

「ふん、まあいいわ」

 相手も、この場で人目を集めてもいいことはないという点では同じだったようだ。
 アイリーシャが乗ってこないと見て取ると、踵を返して立ち去った。

「ねえ、今の誰?」
「フォンタナ公爵家のヴァレリア嬢よ」

 相手が名乗ろうとしなかったので、ひそひそとダリアがささやいてくれる。

(……なるほど。フォンタナ家ね)