転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

これは、アイリーシャの印象を薄くし、人目につきにくくするという効果がある。本気で発揮したら、両親の後ろには誰もいないと思わせることもできただろう。
今は、両親の後ろにアイリーシャがいるとすれ違う人が皆知っている。そこまで強くしていないから、"妙に陰の薄い人"として認識されている。
だが、これが両親と離れてアイリーシャ一人ならどうだろうか。遠慮なく存在感を薄くしていれば、アイリーシャの存在に気付く人は、ほんのわずか。
 これが、アイリーシャが"隠密"スキルを取得するにいたった理由であった。
 広間に入ったところで、いったん、両親とは別行動になる。両親は挨拶に回り、アイリーシャも友人達と旧交を温めるのだ。

(ダリアとミリアムも来ているはずなんだけど……)

 華やかに着飾っている人達を見回すけれど、親友達の姿は見当たらない。

「リーシャ、こっちよ!」

 目ざとくアイリーシャに気付いたダリアが手を大きく振る。その側には、ミリアムもいた。アイリーシャはそちらに向かって歩き始めた。

「素敵ね、そのドレス」
「お母様が張り切ってしまって大変だったの」