転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

昨日までの"アイリーシャ"としての記憶もしっかり残っているけれど、両親が恋愛結婚だったなんてことは知らなかった。子供に聞かせるような話でもないし。

(……でも)

 娘には、幸せになってもらえればそれでいい。母の言葉がすとんと胸に落ちる。
――ひょっとしたら。
今回の人生では、前世とは違う家族になれるのかもしれない。
そう考えている間も、アイリーシャのむっすりとした表情は変わらなかった。
考え事に忙しくて、他のことが頭に入らなかったともいう。

「アイリーシャ様、どうかなさいました?」

すぐ横には乳母と、アイリーシャ専属のメイドがいて、何かあれば、すぐに対応できるようについてくれている。乳母がアイリーシャの顔をのぞきこんできた。
 アイリーシャがむすりとしているので、機嫌をそこねたのではないかと心配になったようだ。

(……ここは、子供らしく振舞った方がいいのよね)

 昨日までのアイリーシャとしての記憶もしっかり残っている。