転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

「うーん……まあ、できなくはないけど。先に、君とルルの契約をすませちゃおうか。話はそれからだな」

 ルル、と呼ぶとルルはちょこちょこと円の中央に戻る。

「はい、そこに伏せて」

 無言のまま、ぺたりと円の中央に伏せた。

「王子、君は円の外に出てね。それで、アイリーシャ、君はルルの側に」
「はい」

 アイリーシャは、ルルの側に寄った。

「本来の儀式とは違うんだけど、今回いろいろイレギュラーだから。我、ちゃちゃっとやっちゃうんで、今後の参考にしないように」

 手のひらを出すようにアイリーシャに命じる。素直に差し出したら、シャッと爪で手のひらを引っかかれた。赤く血がにじむ。

「あいたっ!」
「いたぁぁぁぁい」

 ルルも肉球を引っかかれ、声を上げる。

「ちゃっちゃとやるって言ったでしょ、はい握手。ルル、お手!」

 アイリーシャの手を下に、ルルの手を上に。手と前足が重なり合う。

(……こ、これは……?)

 とくん、と胸が熱くなった。その熱は、体中を駆け巡り、どんどん温度が上がっていく。

「わ……あ……!」

 ぐっと強く、ルルの方に引き寄せられた気がした。