転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 ルルは左に右に廊下の端から端まで蛇行しながら歩いていく。遊びに来た気分なのか、ルルの尾は左右に揺れていた。
 アイリーシャを奥へと案内しながら、エドアルトが問う。

「君は、困難に立ち向かうことを選ぶんだな。もし、聖なる獣と契約することができたなら、君は今以上に大変な立場に置かれることになる」
「逃げてもしかたないって思うんですよ。逃げたって何も変わらない。後回しにしたらしただけ、大変なことが増えると思うんです」

 それは、嘘偽りのない本音だった。
 せっかく、新しい人生を生きているのだから、何かひとつ、全力を尽くしてもいいのではないかと思うのだ。

("隠密"スキルを限界まで高めるのに、努力の大半は使い果たしたけれど)

 先を行くルルが、足をとめてこちらを振り返る。ルルについて歩きながら、アイリーシャは付け足した。

「エドアルト様だって、そうでしょう?」
「守ることができなくて、後悔したことなら、ある」

 考えながらエドアルトが言ったので、アイリーシャの胸がちくんとした。
 彼が、誰かを守ろうとしていた。それに対して、アイリーシャが何か言えるはずもないのに。