転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 そう言ったら、エドアルトはなんだか微妙な表情になった。

「私、間違ったことを言っていますか?」
「いや、言ってないよ……そうだな、そういう考え方もあるか」

 たぶん、こういう風に考えるようになったのは。

(あなたのせいでもあるんですよ、エドアルト様)

 心の中でそうささやいてみる。
 エドアルトが、アイリーシャを守ろうとしてくれたから。だから、アイリーシャも返せるだけのものを返したいと思ったのだ。
 最初に差し出せるのは、この首都の平和を取り戻すための手段。

(そうよ、今の私は――"玉"になる前の聖女なんだから!)

 まだ目覚めていないけれど、聖女になって、魔神を倒して。
 そして、三百年先にその役を伝えるのだ。こんなところで、へこたれている場合ではない。
 正直なところ、王宮に足を踏み入れるのは怖い。
 先日、ヴァレリアに叩きつけられた言葉を思い返せばなおさらだ。

(……私は、大丈夫)

 少なくとも、今回は一人じゃない。エドアルトが付き添ってくれているし、ルルも足元にいる。