転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 きっと、このまま何もしないでいたら、後悔すると思った。何もできず、文句だけ言っていたあの頃には戻りたくない。

(だって、私は、"アイリーシャ"になったんだから)

 今から三百年先なんて、ずいぶん遠い未来だ。それまでの間、人間としての生を全うしなければいけないというのなら。
 後悔するような決断はしたくない――いつの間にか、そう思うようになっていた。

「それでいいのか? 君は、人と関わりたがらないと聞いている」
「それは否定しません。でも、思ったんです――それは、私の一方的な思いかなって。だって、私にも友人がいるんですよ。もし、彼女達が、今回の事件に巻き込まれて、私が何もできなかったとしたら、きっと後悔すると思うんです」

 アイリーシャのことを、家柄や財力だけで見ている人ばかりではない。
 ダリアやミリアムという友人もできた。もし、彼女達や家族が倒れるようなことがあれば、迷わずにエドアルトの提案にのったはずだ。

「できることをやらないで、後悔したくないんです。それに、ルルが私と契約してくれるかどうかはわかりませんよね」