「いえ――、あなたもとっくに気づいているのでしょう? 殿下と近づくのが好ましくない、と」
「それは……」
「今、あなたの周囲にある噂を考えたら、もう少し距離を置くべきでしょう。殿下に傷をつけたくないのなら」

 それは、アイリーシャ自身、考えていたことだった。
 だから、ミカルの部屋に来た時、こんなにも気分が沈んでいたのだ。
 ヴァレリア達から、あんな言葉を投げつけられるまで見て見ぬふりをしていたというのもあるのかもしれない。

「私はね、あなたに期待しているのですよ」

 ばたばたと人が続けて倒れる中、ミカルは残っていた。王宮魔術師は大半が倒れてしまい、現在残っているのはミカルだけ。

(先生は、魔力が少ないのを気にしている……のよね……?)

 日頃、言葉にはしないようにしていても、やはりミカルとしては気になるのだろう。

「――考えておきます。それで、所長、私をここに呼んだ理由は?」
「ああ、そうでした。殿下からお借りした書物の中に、探している品がありそうなんですよ。こちらに運んでもらえますか」

 そう頼まれたけれど、それはアイリーシャをこの部屋に呼ぶための口実だ。