「特に問題はありません」

 顎に手をあてて思案の表情になったミカルは、ルルの顔をのぞきこんだ。だが、ルルは嫌がって顔をそむける。さらに手を伸ばすと、前回同様牙をむいた。

「やはり、嫌われているようですね」

 しかたのないといった表情で、ミカルは顔を上げた。

「――あの、先生」

 思いきって、アイリーシャはたずねてみた。

「先生は、どうお考えですか? 今回の事件……」
「浮かない顔は、そのせいですか」

 黙っていることもできたかもしれない。けれど、アイリーシャはそこまで強くない。
 ゆっくりと首を縦に振った。膝の上にいるルルが、くぅんと小さく声を上げた。まるでアイリーシャを慰めようとしているみたいに。

「私は、自分がまったく関係ないことを知っています。でも、今回の事件――私が、ここに戻ってから始まった、と。そんな風に見る人もいるから」
「……それは、そうですね。たしかに、アイリーシャ様が戻って来たのと、昏睡状態に陥る人が出始めたのは時期がかぶっていると言えばかぶっています――でも」