完璧に存在を消すならともかく、目立たなくする程度ならお目こぼししてもらえる。そう言う自分の顔がまたひきつっているような気がして、視線をそらした。

「――馬車まで送る」

 これ以上、近づいたら。
 余計なことを口にしてしまいそう。胸が痛むのは、気のせいではない。
 それなのに、差し出された手は優しくて、その手を拒むことなんてできなかった。

 ◇ ◇ ◇



「――まったく、ひどい話じゃない?」

 ミリアムは憤慨していた。アイリーシャとヴァレリアが廊下でやり合ったという話は、あっという間に王宮中を駆け巡ったそうだ。
 あんなことがあったのは、昨日だというのに、もう王妃の耳にまで届いていた。

「私達が親しくしているのは王妃様もご存じだから、あなたの様子を見てくるようにと言われたのよ」

 王妃からの差し入れを差し出しながら、ダリアが気づかわし気な目をこちらに向ける。友人達だけではなく、王妃にまで心配をかけていると思うと申し訳なさが募る。