転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 彼は、"絶氷"と呼ばれているのに――それなのに、こんなにも熱い。
 くるりと向きを変えたエドアルトは、令嬢達に向かって低い声を放った。

「アイリーシャには、俺が頼みごとをしている。何か文句があるのか」

 ヴァレリアが代表して、何か答えようとしている。けれど、彼女は口を開いて、閉じてとしたところで目を伏せてしまった。
 アイリーシャからは見えていなかったけれど、彼の鋭い目つきに委縮しているようだ。

(そう言えば、いつの間に……)

 エドアルトは、いつの間にアイリーシャを呼び捨てにするようになったのだろう。まったく気づいていなかった。

「――用がないなら、去れ」

 これまたものすごい低音だ。ばらばらと頭を下げた彼女達は、逃げるように立ち去った。

「不愉快な思いをさせてしまった。すまなかった」

 くるりとこちらをふり返ったエドアルトは、アイリーシャが恐縮してしまうほど深々と頭を下げた。今までとはまとう空気まで変わる。

「……いえ、少し驚きましたがそれだけです」

 彼女達は、エドアルトとアイリーシャの接近が面白くないのだ。気持ちはわかる。