転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 まさか、こんな風に糾弾されるとは思ってもいなかった。

(前世ではさすがにここまでの経験はなかったな……)

 前世で蹴落とされそうになった時は、もっと陰湿だった。直接、こうやって食って掛かってきた人なんていない。
 陰で噂を流されたり、自分の手は汚さず、他人を使用して"愛美"を傷つけようとしていた。
 正面からぶつかってこられる分には、どうってことない。耐えられるはずだ。
 ――けれど。
 その思いは、あまりにも簡単に打ち砕かれた。
 ヴァレリアは、こちらを見下すように顎をそびやかした。赤く彩られた唇が、毒を吐き出す。

「あら、あなたが首都に戻ってきてから、あの病が流行り始めたんだもの。それに、あなたの犬。赤い首輪をつけた犬が被害者の側にいるのでしょう。あの犬、悪魔なのですってね?」
「――なんてことを言うの!」

 アイリーシャの怒りにも、ヴァレリアは動揺した気配など見せなかった。