転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

(国の端から端まで旅行に行くってこともそうそうないし……)

 日本での便利な生活を知っているアイリーシャ自身、不便を感じているかと言えばそうでもない。こちらの世界で十年以上生きて来ていて、こういうものだと思っているからかもしれないけれど。
 エドアルトの部屋を出て、馬車に戻ろうとした時、思いがけない人物に行き当たった。ヴァレリアだ。

(今日は、王妃様主催のお茶会とかあったかな……?)

 アイリーシャにも招待状は普段なら来るところだ。
 けれど、今は研究所の方を優先してほしいと王妃からも頼まれている。そのため、いつ、茶会が開かれているとかまったく把握していなかった。
 ヴァレリアの周囲にいるのは、同じように招待されたのだろう、貴族の女性達がいる。皆、アイリーシャと同年代だ。

「――あら、アイリーシャ嬢。あなた、王宮にいるなんて図々しいのではなくて?」

 ヴァレリアは、顔を合わせる度、アイリーシャに言い放った。

「最近、首都で流行っている病、あなたの仕業ではないの?」
「――なぜ、そんなことを?」

 あまりな言いがかりに、思わず目を丸くした。