転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 さすがに、首に剣を突き付けられたなんて家族にも言えないので、あの時のことは二人しか知らないが。

「俺は、ヴィクトルに用があるって言ったろ? そっちならルルを連れて行っても問題ないし、お前が運べよ」
「……しかたないわね。ルルがいなくなったら、ちゃんと探してよね?」
「任せろ」

 ルルの追跡装置は、ノルヴェルトの分も追加した。ノルヴェルトも、問題なく受け入れてくれている。

「じゃあ、お兄様は騎士団の方をお願い。私が行ってくる」
「どうした?」
「いえ、俺、先に騎士団に回るので、リーシャに運ばせてください。ルル、行くぞ!」

 ぴょんと馬車から飛び降りたノルヴェルトは、ルルと一緒に走り出してしまった。

「こら、足にまとわりつくな! まっすぐ走れ!」
「ワンッ!」

 ルルはノルベルトには気を許しているらしい。傷まないよう、シルクの布に包んだ本を手に馬車から降りる。

「――君は持たなくていい」
「いえ、このくらいは持たせてください。そうでないと、わざわざここに来た意味がなくなってしまうので」