転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 魔術研究所への往復でも、街に出る時でも、アイリーシャには常に護衛がついている。研究所から王宮へ行く時も同じだ。
 だが、彼らは書庫までついてくるわけではないから、書庫では一人になってしまうこともある。ミカルの提案は、それを心配してのものだった。

「わかりました」

 アイリーシャのいる書庫は、研究所の一番奥にある。ノルベルトが一緒に作業できるスペースくらいは確保できる。

「先生は……大丈夫なんですか?」
「どうも、私の魔力では、量が少なすぎるようなんですよ。たしかに、私は魔力が多いとは言えませんからねぇ……」

 不意にミカルが心配になって問いかけたけれど、彼はほろ苦い笑みを浮かべただけだった。
 身体の持つ魔力の量と、どこまで強力な魔力を扱うことができるかというのは、一致しているわけではない。
 アイリーシャの場合、身に秘めた魔力の量はかなり多い。
 量だけならば、国内でも十指に入るレベルだろう。だが、扱うことのできる魔術は、中級に分類されるものまでだ。うかつに上級魔術を行使すると、自分の身体を破壊しかねない。