転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 アイリーシャに抱えられているルルは、暴れることなくじっとしている。噛みつくことはないと、判断されたようだ。
 彼の部屋は、ノルベルトの部屋と比べるといくぶんすっきりしている。兄は一部屋しかもらっていないが、所長は二部屋使うことができるのだ。
 とはいえ、この部屋もまた書棚に侵略されていた。
 本来は客人をもてなすための部屋なのだろうが、それらしき様子がうかがえるのは、部屋の隅に追いやられているソファセットだけだ。

「研究所の職員も、半数が倒れました。こんなことをあなたにお願いするのも、気が引けるのですが」
「いえ、私にできることがあったらなんでも言ってください。今まで、こんな大ごとになっているなんて、想像していなかったんです」

 彼女は、最初は教会で治療を受けていたのだが、今は自宅に戻されていた。
 教会に収容できる人数にも限りがあるということらしく、アデルのところには毎日神官が交代で魔術をかけに行っていると教えられていた。
 教会は入院する場所ではないし、それも当然だろうと思っていたら、想像以上に倒れた人数が多かったそうだ。

「倒れている人達に、共通点ってあるんですか?」