昨日のことなんてなかったように、エドアルトは無表情だ。昨日は、あんなにも笑顔を見せてくれていたのに。

(いえ、これが正解なんだろうけれど……)

 ちょっぴり面白くない、なんて思ってしまった自分に驚いた。

「……殿下、何かあったんですか?」
「しばらく、アイリーシャを貸してもらえないか。頼みたいことがある」

 アイリーシャを貸してもらいたいという言葉で、ノルヴェルトは盛大に眉を顰め、頼みたいことがあるでそれを解いた。

「リーシャを社交の場に引っ張り出そうって話ならお断りですよ? それなら、ヴァレリア嬢を隣に置いておけばいい」
「それは、誰にも頼まないから安心しろ」

 エドアルトはむっとした声音で返してきた。
 たしかにヴァレリアにそんなことを頼んだら面倒なことになりそうだ。
 前世でも、ああいった手合いは山のように見てきた。
 自分の目的を果たすためならば、どんなことをしても相手を蹴落とそうとするのだ。
 前世の"愛美"は人の恨みを買うほど能動的に行動していたわけではなかったけれど、蹴落とされかけたことなら何度でもある。