転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

「ああ、アイリーシャは知らないんだな。君は、王立魔術研究所の職員だろう。神殿は、魔術研究所に対して、あまりいい印象がないらしいんだ」
「なぜです?」
「魔術は創世神のお力。人間がそれを解読しようなどと、神に対する冒涜だ――というのが、神殿側の言い分だな」

 古の魔術を解析し、現在に役立てようとしている魔術研究所。それに対して、神殿では力が失われたのは、人間が創世神を信じなくなったから力が失われたのだ、という言い分なのだそうだ。

(……そんなのって、ひどい)

 現に、ばたばたと倒れている人がいるのに。
 くだらないことで意地を張りあって、本質を見失っているのだとしたら、ここも日本と大して変わりないらしい。

(――人間の考えることなんて、どこも変わらないのかもしれないけど)

 エドアルトは、現状をどう思っているのだろう。

「グ……グルルゥ!」
「――おっと!」

 不意に唸ったかと思ったら、エドアルトの腕の中から、ルルが飛び出した。

「なんだ、あいつ……」

 呆然としたエドアルトは一瞬固まったけれど、すぐに自分を取り戻す。

「追うぞ!」
「あ、はいっ!」