転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

「この子、部屋に置いてきてもなぜか脱走するんですよね……」

 よし、とつぶやいたエドアルトは、ルルを抱き上げた。ルルは前足でエドアルトの鼻を押す。

「ちょ、ルル、やめなさいっ!」

 今の今まで地面に接していた足でエドアルトの顔を抑えるとはどういうつもりだ。
 だが、エドアルトは気分を悪くした様子もなく、小さく笑った。

(……笑った――!)

 彼と顔を合わせた機会はそう多くない。だが、こんな風に彼が笑うのは見たことなかった。笑顔らしきものを見せても、口角がちょっと上がるだけだったのに。
 見てはいけないものを見てしまったというか、胸のあたりをぐっと掴まれたような気がして、アイリーシャは顔をそむける。

(耳、熱いし……!)

 今は、こういうことに関わり合っている場合ではなかったはずなのに、胸がドキドキするのはどうしようもないらしい。

「せっかくだから、連れて行こうか。ルルも、祭りを楽しみたいんだろう」
「……すみません」

 迷子になるのを恐れているのか、エドアルトはルルを抱き上げたままだった。ルルの方もおとなしくエドアルトの腕の中におさまっている。