転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

「そういう問題じゃ……」

 たしかに、エドアルトは強い。アイリーシャもそれは知っている。アイリーシャにも護衛はついているから、十年前のような危険はないはずだ。
――けれど。
 それで問題ないと言われても困る。

「あのですね、殿下。どうして……」
「名前で呼べと言ったのに」

 じっと見られて、思わず赤面した。おまけに手まで取られてしまって、ますます顔が熱くなる。
 どうして、と心の中で繰り返す。
 なぜ、他の人とは違う対応をされるのだろう。

「わ、私、買いたいものがあって、ここに来てるんです……」

 懸命に訴えると、はっとしたように彼は手を離した。
そのすきにアイリーシャは、屋台の店主の方に向き直る。店主は二人を見てにやにやとしていた。

「あらあら、恋人が迎えにきた?」
「そう言うんじゃ、ありません……! ええと、そちらのピンクの袋と、水色の袋と……アロマスプレーもください。二本」

 エドアルトの登場で、計画が狂ってしまった。
アイリーシャは代金を支払うと、受け取った品を手にしていた籠に押し込む。

「――用はすみました! 殿下――エドアルト様」