別にエドアルトに含むところがあるとかいうわけでもないし。彼個人を嫌いになる理由があるわけでもないし。
 兄と一緒にいるところを見ていたら、年相応な表情も少し見せられたから。
 だから、ちょっと意外なところを見て、胸の奥で何かが動いたような気がするから。

(だけど、私は……)

 そう遠くない未来、やってくる魔神との戦い。アイリーシャに何ができるのかはまだ見えていないけれど、魔術研究所の資料には、何かあるのではないかと思っている。
 ようやく、魔術研究所の資料、大半に目を通すことができるようになったのだ。
 だから、気のせいなのだと――そう思おうとしている。

「十年前、君が魔力を暴発させただろう。それで、君は首都を追われることになった。俺の力が足りずに、申し訳ないことをしたと思っている」
「そんな風に考えたことはなかったですね。だって、当時の殿下は――まだ、子供だったでしょう。殿下にできることって、そう多くないと……」
「違う、そうじゃない」

 エドアルトが、何か言いかけた時だった。
 不意に、激しい犬の鳴き声が聞こえてくる。

(……嘘っ!)