転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

「父上の用をすませるのに、出たところだったんだ。そこで君を見たから」

 エドアルトが目を向けたのは、アイリーシャが友人達と別れを告げた場所だった。
 それで首の後ろがちくちくしていたのか。
 通行人とは違う視線に、どこの誰だろうと思っていたから、逆に安心した。

「どうしたって、殿下には見つかっちゃいますね。いつも、気配を殺しているのに」
「もちろん、君のスキルが優れているのは知っている。だが、俺は君なら、どこにいても見つけることができるぞ。君の気配は、完全に覚えたからな」

 そういうものか。次に会った時にも首に剣を突き付けられてはたまったものではないから、その方がいいと言えばいいけれど。

「馬車を待たせているなら、そこまで送る」
「あー……ええ、ありがとうございます」

 エドアルト個人に、悪い印象があるかと問われれば、それはない。まあ首筋に剣を突き付けられたのは事実だが、アイリーシャの方に非があるし、彼からは丁寧に謝罪されている。

(できれば、あまり近づきたくはないんだけどなぁ……)