転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 もう少し自由に街中をうろうろしたかったから、即座に存在感を消滅させた。ぶつかっては困るから、あくまでも人目につかなくなる程度。
 とたん、アイリーシャの存在は気にされなくなったようだ。これで、のんびりとすることができる――と思ったのだけれど。

「アイリーシャ嬢」

 名前を呼ばれ、アイリーシャは振り返った。相手が誰なのかに気づいて顔を引きつらせる。

(――ここで声をかけるとかありえないし!)

 アイリーシャに呼びかけたエドアルトもまた、自分の用を果たすために街に出たところだったらしい。
王族がそんなにふらふら街に出て大丈夫なのかと自分のことは棚の上に勢いよく放り投げた。
 ちゃんとした護衛をつけていれば、街に出るのは推奨されている面もあるのだ。街中の情勢を見ていれば、何か気づくことがあるかもしれないから。

「……殿下」
「――ここで何をしている?」
「……友人達と会って、今から帰ろうとしているところでした。殿下は?」

 別にエドアルトを忌避しているわけではないけれど、近づいたら何かと厄介な相手であることはわかっている。