転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

それから、もちろん、貴族の娘として身に着けなければならないあれこれを勉強する時間もとってはいたし、母の社交上の付き合いに同行することもあった。
 けれど、領地の人々は皆アイリーシャのことを知っていたし、正面から敵意をぶつけてくる人はいなかった。

「フォンタナ家って、最近ちょっと苦しいのよね」

 と、ミリアムが口にした。イチゴのショートケーキを大きく切り分けた彼女は、満面の笑みでそれを口に運ぶ。

「最近ちょっと苦しいって?」
「あの家って、もともと鉱山から採掘される宝石で潤っていたのよ。ほら、ヴァレリアが身に着けていた宝石」
「ああ、いつも大ぶりのものを身に着けているわね」

 アイリーシャが顔を合わせたのは王宮なので、それなりの格式の品を身に着けるのは当然だ。だから、ヴァレリアの宝石にあえて目をやったりはしなかった。

「あれは、領地で採掘されたものなのよ。でも、もうほとんど取りつくしてしまったのですって」

 フォンタナ家の領地では、上質のルビーや、サファイアが採掘されていたらしい。