転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 部屋の隅にある湯沸かし器で湯を沸かし、飲み物を用意してから、バスケットを開く。中に詰められていたのは、色とりどりのサンドイッチだった。
 のんびり兄と向かい合わせで食事をしながら、仕事の話をする。兄とこんな風に過ごす日が来るとは思っていなかった。
 十年ぶりに帰って来た首都では、いろいろと大きな変化が起きているようだ。
 アイリーシャが首都に戻ってきてから、十日ほどが過ぎた。
 魔術研究所での仕事は、順調とはいかなかった。

「……そうですか。アイリーシャ様でも、これは読めませんでしたか」
「すみません……こちらの書物は開けたのですが。昔の人の技術ってすごいというかなんというか……!」

 たしかに、アイリーシャしか開けない書物もあった。そういった書物は、さっと目を通し、中身を整理しているところだ。

「……でしょうね。昔は、魔力を高める術もあったそうですから」

 国一番の魔術師だというのに、ミカルは魔力が少ないのを気にしているらしい。こうやって、魔術研究所の資料に当たっているのも、昔はあったという魔力を増大させる術の復元を目指しているからだそうだ。