転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく

 彼の無表情だったり、近づく令嬢に対する冷淡な態度だったり。たしかに、それらも氷と呼ぶにふさわしいのだろう。
 ――けれど。
 氷をまとった彼の剣は、室温まで下げたようだった。彼の魔力に、部屋中が満たされていく。
 思わずぶるりと身を震わせると、エドアルトはすっと剣をおさめた。とたん、冷気が和らぐ。

「な、殿下の魔力はすごいんだよ。うかつに放つと、味方まで巻き込むからなー」

 加減ができないってそういうことか。

「助かった。邪魔をして悪かったな。では、また調整に来る」

 引き留める間もなく、エドアルトは行ってしまった。彼がいなくなるのと同時に、威圧感まで消えたように感じられて、思わずアイリーシャは息をついた。

「殿下もお忙しいからなー。ところで、初日はどうだ?」
「うーん、思っていたより、奥の書庫にしまわれている資料が多いかしら。あれだけ魔術的保護をかけられるということは、昔の人は魔力が多かったのかも」
「そういう説はあるな。まあ、食べながら話をしようか」

 ノルヴェルトが取り出したのは、家を出る時に詰めてもらったバスケットだ。