まだ、記憶が戻ったばかりで整理できていない。それまでの間は、"アイリーシャ"としての記憶にそった振る舞いをしよう。

("聖槍の戦乙女"の世界に転生したのは間違いなさそうなんだけど……モニカを導く役に付いたんじゃなかったの?)

 両親の会話に耳をすませる。入ってくる名詞は、アイリーシャに聞き覚えのあるものばかり。
 それなのに、今置かれているのは、予想していたのとはまったく違う状況だ。
 なんで、転生して人間やっているのだろう。"玉"に転生したつもりだったのに。

 だが、アイリーシャの記憶はすぐに上書きされることになった。アイリーシャをこの世界に送り込んだその本人によって。
 おとなしく絵本を読んでいるからと乳母を追い出し、いざ記憶を整理しようとしたところで、アイリーシャの目論見は中断させられた。

「いやあ、ごめんごめん」

 どこからか、声が聞こえる。目をぱちぱちとさせて視線を巡らせてみれば、いつの間にかアイリーシャのベッドに猫が丸くなっていた。

「誰?」
「か・み・さ・ま」