およそ5分後。

 ハルが頰を上気させて興奮気味に言った。

「助手席って、スゴイね!」

 駐車場に停めた車の助手席には、車に酔うどころか、嬉しそうに満面の笑顔で話すハルがいた。

「気に入った?」

「とっても! 景色がドンドン近づいて来て、いつもの道なのに、まったく違って見えて」

「怖くはなかった?」

 そう聞くと、ハルはスッと真顔になった。

「……あのね、いつもの道だったから大丈夫なんだけど。何ていうか、次々に車が近づいて来て、信号のところには人も立ってて、……正直、ちょっと怖かったし、ドキドキしちゃった」

「そっか」

 ハルが眉根を寄せてそっと胸を押さえるのを見て、行き先を近場、しかも何かあっても即対応可能な病院にして大正解だったと心から思う。

 さすがに、ただ道を走るだけなら大丈夫だと思う。

 だけど、事故を目撃しちゃうとか、事故にはならなくても衝突寸前の状況を見たら、健康な人間でも普通に心臓バクバク状態になる。

 そんな状況では、ハルは不整脈の発作を起こす可能性が高い。

 やっぱり、車は運転手さんに運転してもらって、ハルはオレと一緒に刺激の少ない後部座席で……。

「でも……近くで良いし、病院だけでも良いから、また乗せてくれる?」

 オレの心配に気付いているのか気付いていないのか、ハルは小首を傾げ、伺うようにオレを見上げた。
 滅多な事で何かをねだったりはしないハル。今回みたいなのは本当に珍しい。

「じゃあ、ハルが元気な日の通院はオレが運転しようか」

 そう提案すると、ハルは本当に嬉しそうに笑った。

「うん! ありがとう、カナ!」

 ああ。ダメだ。
 ハルの笑顔には逆らえない。

「それと、今度、調子の良い日にどこか、近場に出かけてみる?」

「いいの?」

 聞き返すハルの目はキラキラと期待に輝いていた。