「ただ、ハルが車に乗りたいって言うなんて、珍しいなって」

 そう。昔からハルは乗り物酔いがひどくて、車は苦手だ。

 小学生の終わりくらいだったかな。身体に合う酔い止めが出たみたいで、今では体調が良い日なら酔わずに乗れるようになったけど、それも通学程度の距離の話。長時間になると最後まで気持ちよく乗るのはとても難しい。

 長時間乗るのは学校の校外学習と夏の別荘への移動くらいだけど、毎回、相当辛い思いをしているはずだ。

 ああ、でも、もしかしてバスがダメなのと、夏の暑さでそもそも体調がかなり悪い状態からの移動が問題なのかも。

 だったら、体調も気候も良い今の時期なら大丈夫?

「ハルがいいなら、喜んで」

 反射的に笑顔で答えてはみたものの、オレの頭はフル回転。

 途中でハルの具合が悪くなったらどうするんだとか、いやいや、いつでも車を止められる場所を選べば何とかなるんかじゃないかとか。

「いいの?」

 心配そうにオレを見ていたハルが、オレの返事を聞いて、嬉しそうに花がほころぶような柔らかい笑顔を見せる。

「もちろん!」

 うん。とにかく、万が一のために行き先と行き方と道中の状況をガッツリ下調べして、ハルの体調の良い日にすれば何とかなるだろう。

 何とかなると言うか、何とかする!

 そもそも、オレには、滅多にないハルのおねだりを却下するなんて選択肢はないのだった。